鳥取地方裁判所倉吉支部 事件番号不詳 判決
主文
被告倉吉木材合資会社は原告に対し金参拾万円及びこれに対する昭和参拾参年壱月六日以降完済に至る迄年六分の割合に依を金員を支払え。
原告の被告株式会社播与商店に対する請求はこれを棄却する。
訴訟費用は参分しその壱を原告その弐を被告倉吉木材合資会社の負担とする。
本判決は原告において金拾万円の担保を供するときはその勝訴部分につき仮にこれを執行することができる。
事実
原告は「被告等は各自原告に対し金三十万円及びこれに対する昭和三十三年一月六日以降完済に至る迄年六分の割合に依る金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする」との判決並に仮執行の宣言を求め、その請求原因として被告倉吉木材合資会社は昭和三十二年十一月一日額面金三十万円、支払期日昭和三十三年一月五日、支払地新宮町、支払場所神戸銀行新宮支店、振出地倉吉市、支払人被告株式会社播与商店なる為替手形一通を自己指図にて振出し被告播与商店は昭和三十二年十一月五日その引受をした。被告倉吉木材は昭和三十二年十一月十一日訴外株式会社山陰合同銀行に対し同手形を拒絶証書作成義務を免除の上裏書譲渡し、同銀行は昭和三十三年一月六日支払場所において支払のための呈示をしたが同手形は不渡となつた。原告は昭和三十三年三月三十一日訴外銀行から右手形の期限後裏書譲渡を受け現にその所持人である。依て原告は引受人又は裏書前者たる被告等に対し右手形金及びこれに対する呈示日以降の手形法所定利息金の支払を求めると陳述し、被告播与商店の抗弁に対する答弁として債権譲渡通知のなされていないことは認めるけれどもその余の事実は何れもこれを争う。支払拒絶証書作成期間経過後の裏書はそれだけで指名債権譲渡の効力を生じ更に民法の規定に従つて債権譲渡の通知をする必要はない。又支払拒絶証書作成期間経過後の裏書は指名債権譲渡の効力のみを保有し同裏書に依る手形の取得については手形の善意取得規定も悪意取得規定も適用の限りでない。仮に適用があり且手形原因消滅の事実があつたとしても手形原因の消滅は訴外銀行の手形取得後の事であり訴外銀行は善意の手形取得者であるから被告株式会社播与商店に対し有効に本件手形債権を保有している。原告は訴外銀行からその保有する本件手形債権を譲受けたのであるから同被告の悪意の抗弁は理由がない。又本件手形については民法第四百六十八条第二項に依り裏書迄に訴外銀行に対して生じた事由を以て原告に対抗し得るに留り指図債権の譲渡と抗弁の制約に関する民法第四百七十二条の適用はない。仮に適用ありとしても原債権者たる訴外銀行(原債権者は被告倉吉木材合資会社ではない)は本件手形に記載した事項及び手形の性質上当然生ずる手形の権利を有していたのであるからこれを譲受けた原告に手形金の支払を拒否することはできないと述べた。(立証省略)
被告株式会社播与商店は原告の請求を棄却する旨の判決を求め、答弁並に抗弁として原告が訴外銀行から本件手形の期限後裏書譲渡を受けたことは不知。その余の原告主張事実は何れもこれを認める。仮に原告が訴外銀行から本件手形の裏書譲渡を受けたとしても被告株式会社播与商店は譲渡人たる訴外銀行から民法第四百六十七条第一項の債権譲渡通知を受けていない。依て原告は本件手形債権の取得を以て被告株式会社播与商店に対抗することはできない。更に仮に対抗できるものとしても被告株式会社播与商店は昭和三十二年十一月五日被告倉吉木材合資会社との間に代金はウドン箱仕組板一箱分につき金四十六円、ソーメン箱仕組板一箱分につき金四十八円とし同年十二月末日迄に仕組板全部の納入を受ける約定でウドン箱仕組板並にソーメン箱仕組板各四千箱分の買受契約を締結し、同買受代金の支払方法として本件為替手形の引受をした。然るに被告倉吉木材合資会社はその後全然契約の履行をしなかつたため被告株式会社播与商店は昭和三十二年十二月三十一日被告倉吉木材合資会社と交渉の結果同売買契約を合意解約したので茲に被告株式会社播与商店の本件手形金支払義務は被告倉吉木材合資会社に対する関係においては消滅した。然るところ訴外銀行の裏書は支払拒絶証書作成期間経過後になされたものであつて本件手形債権が指名債権として取扱われるに至つた結果からして被告株式会社播与商店は被告倉吉木材合資会社に対する右手形金支払義務消滅の人的抗弁を以て第一次の被裏書人たる訴外銀行にも対抗し得べく、更に民法第四百六十八条第二項に基き通知即ち裏書迄に譲渡人たる訴外銀行に対抗し得た指名債権消滅の抗弁を以て譲受人たる原告に対しても亦対抗し得るものといわなければならない。又本件手形は上記の如く仕組板買受代金の支払方法として引受されていたところ後日売買契約が解消し被告株式会社播与商店の代金支払義務が消滅したため不渡りとされたものであるが原告はこれ等の事情を知悉し乍ら訴外銀行から本件手形の裏書譲渡を受けたのであるから悪意の取得者である。手形法第十七条に謂う「所持人がその債権者を害することを知つて手形を取得した」場合とは満期日の前後を問わず原債権者と手形債務者との間における手形金支払を拒否し得る人的抗弁の存する事実を知悉して手形を取得した所持人は悪意の取得者として債務者に対し手形金の請求をなし得ない趣旨であつて右法条の適用については同時に民法第四百七十二条の適用があることは学説判例の一致する所である。即ち本件手形の原債権者は被告倉吉木材合資会社であり同被告と被告株式会社播与商店との間の手形振出並に引受の原因を成す仕組板売買が前叙の通り適法に解除せられ、その基本債権である売買代金債権の消滅と同時にその支払方法として授受された本件手形金債権も消滅したことは明かであつて原告はこの事実を知悉し乍ら本件手形を取得したのであるから仮令原告の直接の前主が訴外銀行であり同銀行が善意でその手形を取得したという事実関係が介入していたとしても原告が手形取得当時原債権者と債務者との間に実体上の債権債務関係が消滅している事実を知つていた以上害意ある手形所持人と解するに妨げなく被告株式会社播与商店が原債権者である被告倉吉木材合資会社に対する手形債務消滅の抗弁を以て原告に対抗し得ることは疑義を容れる余地がないと述べた。(立証省略)
被告倉吉木材合資会社は原告の請求を棄却する旨の判決を求め、答弁として原告主張事実は何れもこれを認めると述べた。
尚当裁判所は職権を以て原告本人尋問をした。
理由
被告倉吉木材合資会社が昭和三十二年十一月一日額面金三十万円、支払期日昭和三十三年一月五日、支払地新宮町、支払場所神戸銀行新宮支店、振出地倉吉市、支払人被告株式会社播与商店なる為替手形一通を自己指図で振出し被告株式会社播与商店が同年同月五日その引受をしたこと、被告倉吉木材合資会社が昭和三十二年十一月十一日同手形を訴外山陰合同銀行に対し支払拒絶証書作成義務を免除して裏書譲渡したこと及び訴外銀行が昭和三十三年一月六日右支払場所において右手形を呈示して手形金の支払を求めたが被告株式会社播与商店においてその支払を拒絶したことは各当事者間に争がなく原告が昭和三十三年二月二十八日訴外銀行から右手形の期限後裏書譲渡を受けたことは被告等各代表者本人尋問の結果に依りその成立を認め得る甲第一号証、証人増田次郎の証言並に原告本人尋問の結果に依り明白である。被告株式会社播与商店は原告が訴外銀行から右手形の期限後裏書譲渡を受けたにしても訴外銀行から同被告に対し未だ民法第四百六十七条所定の債権譲渡通知がなされていないから原告は右手形債権の譲受を以て同被告に対抗することはできないと主張するけれども指図禁止手形以外の手形においては期限後裏書と雖も手形の裏書交付に依り対外的にも完全な債権譲渡の効力を生じ債権譲渡通知を必要としないものと解するを担当とするので右主張は理由がない。而て前顕甲第一号証、被告等各代表者本人尋問の結果並にこれに依り各その成立を認め得る乙第一号証、乙第二号証、乙第四号証に依れば被告株式会社播与商店は昭和三十二年十一月五日被告倉吉木材合資会社からウドン箱仕組板並にソーメン箱仕組板各四千箱分を代金を一箱分につき前者金四十六円後者金四十八円とし同年十二月末日迄に右仕組板全部の引渡を受ける約定で買約しその代金の支払方法として本件為替手形の引受をしたものであるところ被告倉吉木材合資会社においてその後仕組板の引渡を全然履行しなかつたため同年十二月三十一日同被告会社と折衝の結果右仕組板売買契約を合意解約し本件手形は支払期日迄に同被告会社から返還を受けることに同被告会社と約定していたものであることが認定される。さすれば本件手形の手形原因は右合意解約に因り消滅しているのであるから被告株式会社播与商店は民法第四百六十八条第二項に依り原告の善意悪意を問わず債権譲渡通知に相当する本件手形の期限後裏書並に交付の日迄に生じた右手形原因消滅の事由を以て原告に対抗することができるものといわなければならない。
依つて原告の被告倉吉木材合資会社に対する請求は正当としてこれを認容し、被告株式会社播与商店に対する請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条本文、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項第三項を適用の上主文の通り判決する。(昭和三三年一〇月二八日 鳥取地方裁判所倉吉支部)